貴方、貴方、どうして私をお見捨てになったのです。貴方のお心が変わられたのは私のせいですか?

   確かに結婚の約束はしておりませんでした。ですが、私は貴方に愛してもらいたかっただけなのです。例えそれが身体だけの関係であっても……いい。忍び会うそのひとときだけ熱い情愛に包まれたなら、それで私は満足でした。

   けれど貴方はそれをなさらず、不意に私の許を去って行かれました。ただ私を被虐的な嗜好の女に仕立てあげ、そして猫でも追い払うかのようにお見捨てになったのです。

   何故、何故、ああ、貴方なしで、どうして私が生きられましょう。過去を御破算になさるのがお望みであったなら、どうか私の心の算盤も合わせてくださいませ。

   でも、それから三日待っても四日待っても、貴方はお戻りにはなりませんでした。

   私は自分の家に戻り、仕事にも行かず、呆けたように日々を過ごしました。聖書を放り投げ、それに朝日が射し込み、夕日が紅く染めるまで、ぽつねんと座っていたのです。

   いつしか食事が喉を通らなくなりました。睡眠もままならなくなりました。このままでは身体を壊すよと、ご近所の方が差し入れてくださった惣菜のみで、やっと命を繋いでいたにすぎません。ええ、緩やかな死への途上にあったことは間違いないでしょう。

   ただ、私はそれに抗いませんでした。貴方を失った私が死へと向かうのは、ごく自然な現象に思えたのです。

   そうしているうちに時は流れ、神無月の暦が過ぎてゆきました。霜降月の空が霙(みぞれ)を落としそうになりました。窓から望む路地には闊葉樹(かつようじゅ)の落葉が五枚、六枚。あの日のお布団と同じ榛(はしばみ)色(いろ)をして佇んでおりました。

   しかし、どうしたことでしょう。その頃になって私は、ある変化に気づいたのです。もちろん何故そうなったのかはわかりません。