しかし、それが仇となったのでしょうか。あるいは神に背いた罰だったのでしょうか。

「もう、会うのはやめよう」

「どうしてですか? そのようなことを仰らないでください。私の思慮に至らないところがあるのでしたら……」

「悪いが話し合うつもりはないんだ」

   あれは半年前のことでしたね。唐突に別れを切り出した貴方は、侮蔑するような目で私を見据えておられました。そして腕に縋(すが)る私を振り払って部屋を出て行かれたのです。

   ひとり残された私の気持ちが貴方にはお分かりになりますか。張り裂けそうな胸を抑え、声にならない声で泣いていた私の気持ちがお分かりになりますか。

「待って」

   確か黄昏時と記憶しております。遠くから小学生の吹く縦笛の音が聞こえておりました。三軒隣にある惣菜屋さんの店先からは、揚げ物の匂いが忍び込んでおりました。夕立ちを前にして、どろりと湿った空気が流れていたかもしれません。

「貴方、戻って。戻ってください……」

   走る足音を追って、私は障子戸を開けました。でも、そこに貴方のお姿はありません。霞みゆく夕闇の中に、ただ黒々とした町並みが続いているだけでした。