――恋に溺れた者は不幸になる――

   と、神父様よりそんなお言葉を給わっていた私ではありましたが、それだけに一度(ひとたび)男性を意識してしまってからは、皮肉にもその感情を体内に留めることが叶わなくなってしまいました。

   そのような些細なことで絆(ほだ)されるとは。と、人には嘲られるかもしれません。無論、浅はかであったことは承知しております。ですが溢れ出る……と、表現しては大袈裟でしょうか。行き場を失いたくないと願う烈しい感情の中に、けれど純粋な恋慕の想いが疼いていたのは確かでございました。

   貴方にお会いしたい。お会いして言葉を交わしたい。そんな切なる願いに私の心は焼かれていったのです。

   やがて日々を懊悩(おうのう)として過ごしていた私が、いつしかあの駅に立っていたことは貴方も御存知のとおりです。

「あの、先日はありがとうございました」

「君は……ああ、あの時の」

「はい。改めてお礼を申し上げたくて、ご迷惑とは思いましたが声をかけさせていただきました」

「今どきにしては律義な娘(こ)だなあ」

   突然で驚かれたことでしょう。でも、私は貴方を探して半月も駅に通っていたのですよ。必然……そう、それが必然なのだと信じて疑っておりませんでした。

   あの時の胸のときめきを、何と表現したらよろしいのでしょう。……わかりません。初めて知り得た恋の狂気は、私には測りかねるものがありました。歓喜に沸き立ち、それでいて面映ゆい。とでも申し上げたらよいのでしょうか。どこか病の熱にも似た高揚感に、私は浮かされていたのです。この高揚感の中でなら死んでもいいとさえ思っていたかもしれません。

「こんな可愛らしい娘さんにそう云われて、どこに嫌な気のする男がいるものか。今日はお茶ぐらいしかご馳走できないけれど、それでもいいかい?」

   貴方は大人の男性らしく、その対応も紳士的でしたね。

   私は返事をする言葉でさえ喉に詰まったものです。

「ご迷惑にならないのであれば」

   やっとのことでそう答えた時には、既に瞳の奥が熱くなっておりました。

   長く神様に愛されてきた私ではありましたが、あの時の私は、私を愛してくれる人間の誰かを欲していました。そして、それは現在もです。

   私は酷くはしたない、慎みのない女なのでしょう。言葉ではどう取り繕ってみても、結局は清らかな心など持ち合わせていなかったのですね。

   その後、貴方に誘われるまま逢瀬を重ねていったのも、全てはこの淫らな欲望に由来しておりました。