この三件の殺人事件にはいくつかの共通点がある。

   それは凶器、及び殺害方法が同一である事と、比較的人が多い時間帯であったにも関わらず目撃者が一人もいない事だ。妻に至っては満員電車の中で殺害されている。 いかに自分の足元すら確認できないほど車内が込み合っていたにしても、誰一人として不審者に気がつかなかったのは些か解せない。 都会で暮らす者達が、それだけ他人に無関心であるという事の証明であるのかもしれない。

   昨日の事件にしてもそうだ。犯人は白昼堂々他人の家に上がりこみ、そして犯行を行なっている。 近所付き合いが希薄になりがちな昨今の事情を顕著にあらわしているケースと言えよう。

   しかし、それよりもこの三人の被害者の最大の共通点は、やはり致命傷となった傷口がひとつしかない事だ。

   僅か一撃。鋭利な、太い針のようなもので肋骨を避け心臓を一突きにするには、それなりの医学的知識を必要とする。 犯人が医者か殺人のプロか定かではなくとも、素人でないのは確かだ。

   間垣は頭を掻きむしった。

   同じ手口の殺人事件が今も続いていて、なのに犯人は一向に捕まらない。 妻を殺した者が、今もこの国を堂々と闊歩している事実を受け入れる事ができなかった。それほどまでに現代の日本は、犯罪の温床となる国に成り下がったのか。 治安大国と呼ばれた過去の日本は、もはや遠い幻なのかもしれない。

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