と、背後からドアをノックする音が降ってきた。
刹那、昨夜の覗き部屋の光景が間垣の脳裏をよぎる。間垣は首を二、三度振った。
「どうぞ」
果たしてドアが開き、研究室に入って来たのは助手を務めている加賀亜由実(かがあゆみ)だった。亜由実は30代前半の看護師で、間垣の研究室に配属されてからもう二年にもなる。
小柄なわりに肉感的な彼女は、知的な面差しに似合わない、やや厚い唇が印象的な女だ。
秋田県の出身らしく色白の肌とボリュームのある黒髪が対象的で、大学病院内にも密かなファンは多い。
「おつかれさまです」
「ごくろうさま」
書類を脇に抱えたまま簡単な挨拶を交わし、間垣の真後ろの席に着いた。少時してカタカタとキーボードを叩く音が聞こえてくる。
間垣が彼女と半ば不倫関係になってしまったのは、妻を無くして生活が荒んでからの事だった。
あれは半年前の事。第二の刺殺死体が運び込まれた夜、間垣は病院を出てから深夜の街を徘徊していた。
昨夜と同じように、泥酔した状態で裏通りを歩いていたに違いない。
けして安全とは言えない歌舞伎町の路地裏を、高価すぎて味も理解できないワインの酔いに揺られながらだ。
――畜生、警察はなにをやっている。
路地は薄暗く、数人の若者が何をするでもなくたむろしていた。
しゃがんでいる者、立って壁に寄り掛かっている者、こちらを睨みつけているもの。
髪は鳳仙花のように四方八方へと尖り、蒼白い顔に目つきだけがやけに鋭く光っていた。
チェックなのかアロハシャツなのかわからない派手なシャツをだらしなく着ていて、手にしているものが煙草なのかマリファナなのかもあやしかった。
彼らの横を通り過ぎる時、間垣の額は汗でじっとりと濡れていたはずだ。
間垣が彼女と半ば不倫関係になってしまったのは、妻を無くして生活が荒んでからの事だった。
あれは半年前の事。第二の刺殺死体が運び込まれた夜、間垣は病院を出てから深夜の街を徘徊していた。
昨夜と同じように、泥酔した状態で裏通りを歩いていたに違いない。
けして安全とは言えない歌舞伎町の路地裏を、高価すぎて味も理解できないワインの酔いに揺られながらだ。
――畜生、警察はなにをやっている。
路地は薄暗く、数人の若者が何をするでもなくたむろしていた。
しゃがんでいる者、立って壁に寄り掛かっている者、こちらを睨みつけているもの。
髪は鳳仙花のように四方八方へと尖り、蒼白い顔に目つきだけがやけに鋭く光っていた。
チェックなのかアロハシャツなのかわからない派手なシャツをだらしなく着ていて、手にしているものが煙草なのかマリファナなのかもあやしかった。
彼らの横を通り過ぎる時、間垣の額は汗でじっとりと濡れていたはずだ。