そして第三の遺体が今日だ。
前二体と同じく左側から心臓を突き刺されて絶命したその遺体は、まだ二十歳くらいの少年だった。
妻と同じ傷口が、今は物言わぬ少年の無念を訴えていた。
恐怖に歪んだ表情、胸を掻きむしろうとして曲がった指。
彼には、死ななければならないどんな理由があったと言うのだろうか。
およそ人間の死など、太古から繰り返されてきた当たり前の出来事ではある。
しかし、いかなる理由が存在していたとしても、命は他者に奪われていいものではあるまい。
法医学者である間垣には、無念を抱えたまま逝った者の恨み言が傷口をとおして聞こえてくるようであった。
――なにが“法治国家”日本だ。
いたたまれなくなって終業と同時に歌舞伎町へと足を運んだ。
いったどれほど飲んだだろうか。今はもう、どこをどう飲み歩いたのかも思い出せない。
何故か間垣のもとに、一定の周期をもって持ち込まれる同じ傷口の死体。
そのたびに愛する妻を殺された悲しみが鮮明な映像を伴って甦る。まるで妻が自分を忘れさせまいと操っているかのようだった。
――もう、たくさんだ。
赤黒くぽっかりと開いた小さな傷口が、間垣を暗く深い地獄の淵へと誘う。
やがて脳裏に刻まれた傷口が、窓の向こうでわざとらしく身悶えする女の赤い女性器と重なった時、不意に背後からドアをノックする音が降ってきた。
「失礼しまぁす」
ノックと同時に開けられるドア。無遠慮に部屋に入って来たのは、四十に近い小太りの女だった。