あれから30年経った今になって、急にあのラストシーンを頻繁に思い出すようになったのには理由がある。
一年前、妻が何者かに殺害されたからだ。
「お客様、お待たせ致しました」
後ろから声がして、間垣(まがき)ははっとした。
自分は思ったよりも酔っているのか。考えてみると、この店がいったい歌舞伎町のどこにあるのかの記憶がない。
覚えているのは、ちらちらと赤く瞬いている安っぽいネオンと、細く長く続く地下への階段だけだ。
その階段を降り、3000円の入場料を払い、薄暗い待合室に通されたはずだった。
「お客様?」
「あ、ああ……」
振り向くと、受付に居た男がカーテンを捲り上げて間垣を手招きしていた。
髪の毛を真っ赤に染めているが、年齢は30歳に近いだろう。それはいかにも質の悪い風俗店に居そうな、風采の上がらない男だった。
「只今からご案内致します」
「そうか」
覚束ない足どりで男の背中を追って行く。案内されるまま辿り着いたのは、ビデオ試写室ほどの小さな個室だった。