プロローグ
幼い頃にギャング映画を見た事がある。
あの頃、妹が生まれて手が回らなくなった母は、私が危ない場所で遊ぶのを止めさせる為に映画館へと通わせていた。
毎週土曜日になると母から貰った小遣いを握り締め、家の近くにあったミニシアターが軒を連ねるビルへと通っていた記憶がある。
信号を二つ越え、映画館の入口をくぐり、ポップコーンを買う瞬間の高揚感が今もあの頃のように思い出せる。「ボニー&クライド」も、その時に見た映画ではなかったか。
それはアメリカ大恐慌時代に実在したギャングを描いた作品で、不条理感の漂う奇妙な信頼感がテーマだったはずだ。
実在した彼らは数多くの銀行強盗を働いた罪で最後には射殺される。
フォードV8のボディと共に蜂の巣にされる二人のラストシーンが印象的だった。
激しい銃声と吹き出す鮮血。
僅か10歳頃に見たそのラストシーンは、幼い私が体調を崩すたびに悪夢となって甦ってきたが、
いつしかその夢を見る事もなくなり、やがて思い出す事も少なくなった。