あの晩、亜由実が肉体関係を求めてきた理由はわからない。
しかしあれ以来、間垣の荒んだ生活に亜由実とのただれた関係が加わったのは確かだった。
そして、その関係は今も続いている。
妻を失った寂しさと悲しみにかこつけて、心の内にある罪悪感を謀り続けながら何度彼女を抱いた事か。
今では、週に一度は彼女の部屋に泊まるようになっていた。
いつの間にかカタカタとキーボードを打つ音が止み、亜由実が席を立っている。
どうやらコーヒーを淹れているらしい。彼女自身が持ち込んだコーヒーメーカーが、ゴホゴホと咳きこみながらサーバーに水蒸気を送っていた。
「先生、少し休憩をなさってはいかがですか?」
そう言われ、亜由実にコーヒーを手渡された。
彼女はこちらを見て微かに微笑んでいる。
化粧こそ薄いが、その濡れ濡れと光沢のある唇はエロティックだ。
カフェオレに近い色のコーヒーが、カップの中で波紋を作って揺れていた。
「疲れているように見えるか?」
間垣は質問を返した。
「ええ、お酒の臭いが、ちょっと……」
昨夜あれだけ飲んだのだ。アルコールが抜けていないのも頷ける。
昼休みが終わったばかりのこの時間では、頭痛が止んだだけでも良しとしなければなるまい。