暫くして……だと思うが、目が覚めた時には亜由実の部屋に居た。 そこが亜由実の部屋だと気づくまでに5分はかかったかもしれない。 だが、体はまったく動かなかった。

   視界の隅に、寝息をたてている亜由実の姿が見えた。彼女は裸で、無防備にも両手を投げ出して眠っていた。 子兎の背のような二つの乳房が、彼女の呼吸に合わせて上下していたのが印象的だった。

   どうやら彼女の部屋に泊まってしまったらしい。かろうじて記憶の断片が前日の出来事を覚えていた。 今にして思い返してみれば、よく死ななかったものだと思う。

   パズルを埋めるようにして、やがて冴えてきた意識で記憶をかき集める。 あの路地を出た後の事を考えてみた。

   あの後、彼女に抱えられ無事に大通りへと戻った。 そして何かに……おそらくはタクシーに揺られ、泥と嘔吐物で汚れた体を亜由実にシャワーで流され、ベッドに寝かせられたのだろう。

   曖昧な意識の外ではあったが、亜由実が囁いた「先生は寝ていて下さい」「じっとして」の言葉も覚えている。 気づいた時には彼女の乳房が胸に重なり、そして頬を甘噛みされていた。

   やがて彼女の舌に愛撫されて覚醒した神経が、背骨が溶けてゆくような甘美な感覚を作り出した。 何が行われているかはすっかり理解していたが、体がまったく言う事を聞かなかった。 泥酔した体では、瞼も満足に開けていられない。 暫くして下半身が熱いぬめりに包まれ、そこで間垣は意識を失った。

   正直、射精した記憶はなかった。だが、性行為の痕跡は体にはっきりと残っていた。
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