調査員は何故こんな店を指定したのか。
背中が揺さぶられる程の重低音で流されている、セックス・ピストルズの《アナーキー・イン・ザ・UK》。
あれはきっと酔っているのだと信じたい、目が虚ろによれた痩せぎすの若い女。そう言えば、入口の扉が二重だったのも気になる。
見上げると吹き抜けになった二階では、ベンチシートで抱き合う若い男女までもが居た。
下品なキャバクラさながらに、人目も憚らずネッキングかペッティングかもあやしい痴態を繰り広げている。
女の物と思われる、品のないラメが入ったバッグは床に落ち、ほとんど下着のように薄いドレスの上から男が乳房を激しく揉んでいた。
「パンダみたいなアイメイクだな……」
そう呟いた時、視界の隅に体格のいい男が現れ、間垣の正面の椅子を引いた。
「すみません、遅れちゃって」
男は体格に似合わず比較的高い声でへへへと笑い、ドスンと勢いよく椅子に腰かけた。
スリムのジーンズにダボダボの綿のシャツ、底の厚い安全靴にポケットから覗く市松模様の財布と黒縁眼鏡。
一見しただけでは、とてもこの男が探偵には見えない。前任者の男もそうだったが……確か片山と言ったか、東京に事務所を移転したばかりの彼らが、こと「危ない」調査で常に高い評価を受けているのが、にわかには信じがたかった。
「間垣さんでしょ?俺が村井っす。お待たせしてすみません」
頭突きで瓦でも割る空手家のように、ブンッと頭を下げながら挨拶をする村井。
顔を上げた時には眼鏡がずり落ちていた。